CIAOは、第一原理バンド計算PHASE/0が利用する「擬ポテンシャル」を作成するためのソフトウェアです。matelier PHASE/0には一揃いの擬ポテンシャルが付属していますので、通常の計算ではCIAOを使って擬ポテンシャルを作成する必要はありません。
ここではCIAOを積極的に活用した事例をご紹介いたします。
擬ポテンシャル法の一風変わった特徴に、「仮想的な(実在しない)元素の取り扱いが可能」であることが挙げられます。性質の似た元素の擬ポテンシャルを任意の比率で「混ぜる」ことにより、その間の性質を持つ元素を作成することができるのです。
このような仮想的な元素(擬ポテンシャル)を使った計算は、仮想結晶近似(Virtual Crystal Approximation; VCA)と呼ばれます。
PHASE/0で用いる擬ポテンシャルはCIAOで作成します。原子番号を非整数とした擬ポテンシャルは、周期表で隣り合う元素の間の性質を持つことが期待できます。CIAOは実験結果を参照することなく第一原理計算に基づき擬ポテンシャルを作成しますので、実在しない元素の擬ポテンシャルを作ることが可能です。
ここではCIAOを活用したVCAの事例を二つ紹介します。
Fe, Co, Niなどの3d遷移金属から成る合金の磁気モーメントは、合金の詳細には依らず、一原子当たりの電子数で概ね決まると言われています(スレーター-ポーリング曲線)。これをPHASE/0で確かめます。
PHASE/0の計算では、対象とする原子配置を具体的に指定する必要がありますので、合金のような「ランダムな原子配置」の取り扱いは不得意です。そこで、Mn - Fe - Co - Niが周期表で横に並んでいることに着目します。
原子番号25から28まで非整数値の仮想的な元素を含めて擬ポテンシャルを作成し、その擬ポテンシャルの完全結晶(体心立方格子もしくは面心立方格子)で合金を模擬(VCA)します。
このようにして計算した一原子当たりの磁気モーメントを右に示します。
(非整数の)原子番号が26.2程度で最大値2.35μBになること、また、グラフ右の線を延長すると、原子番号が28.6付近でゼロになることなど、実験と一致する結果を得ました。
次に、Mg(原子番号12)とAl(同13)の混合を考えます。
2014年のノーベル物理学賞は青色LEDの発明に対して与えられました。この青色LEDにはGaNを主材料とする窒化物半導体が用いられています。GaNは、LEDとしてはもちろんのことパワー半導体としてもすでに実用化されていますが、さらなる性能向上を目指して、結晶中の欠陥を低減するための研究が推進されています。
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PHASE/0(GGA)の計算では、格子定数が実験値よりも数%大きくなる傾向があることが知られており、本計算でもGaN, ScAlMgO4ともに格子定数を大きめに評価してしまいますが、格子不整合は実験値の-1.9%を再現しました。
そして、最適化した格子定数でのScAlMgO4の状態密度を右図に示します。バンドギャップは、4eV以上の大きな値になりました。実験値は5eV程度と言われていますので、GGAの計算がバンドギャップを過小評価することを考慮すると、VCAでScAlMgO4の物性が記述できていることがわかります。
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第一原理計算に必要な擬ポテンシャル作成ソフトウェア「CIAO」による解析事例紹介です。
解析対象: 仮想結晶近似(VCA)/ 磁気モーメント / ScAlMgO4 / GaN / 格子定数
解析事例
「仮想結晶近似――仮想的な元素(擬ポテンシャル)による解析」
第一原理計算による受託解析を承っております。
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